友達の佐々木君(仮名)は,人から変わっていると言われます。
佐々木君は会話の中で文脈を読み取ることができません。
また,いわゆる空気を読んで行動することができません。
そのため職場の人間関係がうまくいかなくなり,仕事を転々としています。
私と佐々木君の付き合いはもう30年。
子どものころからの友達です。
佐々木君が人間関係を少しでも円滑に行うためにはどうすればよいでしょうか。
いろいろ考えてみましたが,私は最終的には次のようにするしかないと考えます。
佐々木君の特徴を最初に自分から明かし,まわりに理解を求めることでトラブルを減らす。
何の変哲もない地道な方法です。
一風変わった佐々木君の話を通して,特徴的な人と付き合う方法を考えてみます。
言葉の裏を読むことができないとどうなるか
言葉の裏を読むことができないことのデメリット
佐々木君は人の話を理解するのが苦手です。
なぜなら,言葉の裏にある意味を読むことができないからです。
言葉の裏の意味をわからないと,どういう事態を招くのでしょうか。
謙遜がわからない
「私には無理なので遠慮します。」
このセリフは,本当に敬遠している場合と,お決まりの謙遜からでる場合があります。
ふつうは相手の言い方や状況から,どちらの意味で言っているのかを理解できるのですが,佐々木君にはわかりません。
相手が本当は何かをしたい!と思っていても,佐々木君は謙遜の方を採用し,「それではやめておきましょう」となります。
相手は真意を理解してもらえず不満をもつことになります。
お世辞がわからない
佐々木君自身はお世辞を言いません。
しかし本人はお世辞を言われると真に受けます。
お世辞でほめられたことに対し本気で喜んでしまいます。
ほめられたことで調子をよくした佐々木君は,たいがい間違った行動に走ってしまいます。
そこでトラブルが発生し,周囲の指摘により,お世辞で褒められていたことを知るのです。
喜んだ分余計に佐々木君はがっかりすることになります。
例えば,過去にはデート商法にひっかかり危うく数百万のダイヤの購入契約を結ばされそうになったこともありました。
冗談がわからない
ちょっと難しい冗談はよくわかりません。
ただし冗談を言われるのは嫌いではありません。
内容はわからずとも皆が楽しそうに話すのを見るのは好きだからです。
佐々木君は人と意見が違っていたり,勘違いをして発言したりしてしまうことが多くあります。
そんなときは仲の良い友達からはツッコミを受けることになります。
本当のことを言うと,佐々木君自身はツッコミを受けた理由があまりよくわかりません。
ですが,まわりが楽しそうに笑うので「まあ,いいかな」と思っています。
皮肉がわからない
皮肉がわかりません。
相手は,佐々木君に何かを気づいてもらいたいための合図として皮肉を言っています。
直接ずばり指摘するより柔らかく言うためです。
しかし,佐々木君は相手の意図することを完全にスルーしてしまうため,相手をいらつかせたり,怒らせてしまったりすることがあります。
言ってはいけないことを言ってしまう
この点が多くのトラブルの種になります。
「暗黙の了解」や「秘密にしたいこと」,「言われたくないこと」などがよくわかりません。
佐々木君の口をふさぐには,「これは言ってはだめだ」と忠告しておかなければなりません。
この点について,わかりやすいエピソードを挙げてみます。
佐々木君以外の人が,呼び込みをしている人と値段交渉をしてからお店に入りました。
佐々木君はお店に入ると,店員の女性に次のように話をしました。
「ぼくは,ぼくの話を聞いてくれる人としか話せない。」
「ぼくらはお店に入る前に料金を少しでも安くしてもらおうと相談していたんだ。そして,入り口でお店の人と値段を交渉したんだよ。」
どうでしょう。
どちらの発言も普通の人なら話さないことです。
店員の女性も,客である私たちもしらけてしまう発言です。
この発言をした佐々木君は,特にこの発言のまずさに気づいていません。
また,この発言でその後の場の雰囲気が変わったことにも気づいていません。
このように,余計な発言をしてしまうことでトラブルを起こしてしまうのです。
言葉の裏側が読めないことのメリット
言葉の裏の意味がわからないことで,不利益を被ることも多くありますが,悪いことばかりでもありません。
良い点についても挙げてみます。
うそがつけないので信用されやすい
言葉の裏に意味を込めることができず,思ったことをそのまま口にだしてしまうので,うそがつけません。
佐々木君は元来人柄が穏やかで,いつも笑顔で優しく人に接しています。
うそがつけないことで相手に安心感を与え,人から信用されやすくなっています。
人を区別しない
佐々木君は言葉の裏が読めないため,人の本性を見抜くことが苦手です。
また,人に対してあまり興味がないので,相手がどういう人なのかという点は,佐々木君にとってさほど重要な点ではありません。
そのため佐々木君は誰に対しても区別せずに穏やかに優しい態度で接することができます。
この点がよくわかるエピソードを挙げてみます。
なんと,佐々木君は相手が知的障害のある人であることに気づいていなかったのです。
相手のことを理解する力が欠けているので,それはそれで困ったことも多いのですが,どんな人にも穏やかに同じように接するところは素敵なところでもあります。
私は,このような点に魅力を感じて友達になった気がします。
(知的障害のある人に対し障害のない人と全く同じように接するのが必ずしもよいわけではありません。障害の特性に応じ,合理的な配慮をすることが求められるのですが・・・)
言ってはいけないことを言ったことが結果的にブラスに働くことがある
人があえて言わなかったことを,改めて発言することで状況が改善することがあります。
例えば,上司の意に反するから誰も発言しなかったが,佐々木君が指摘することで,非効率的な方法が見直されるといった具合です。
ただし,上司からは嫌われてしまいます。
まとめ
おそらく佐々木君はいわゆる発達障害をもっているのでしょう。
発達障害は,近年非常にクローズアップされ多くの人がその概要を知ることになりました。
ひとえに発達障害といっても,その実態は人により千差万別です。
おおざっぱに言えば,発達障害は単なる個性とも考えられます。
極端に言えば,すべての人はなんらかの発達障害をもっているとも考えられます。
発達障害について理解することは,人を理解するうえでとても有益です。
それは,発達障害をもつ人,まわりの人双方にとってです。
ただし,典型的な発達障害について理解したとしても,実際には本に書いてあるような典型的な障害の例は少ないのではないでしょうか。
実際は人によってさまざまな特徴をもっており,長く付き合ってみないと見えない部分がたくさんあります。
長年友達として付き合ってきた私でも,佐々木君のことで理解できないことがまだまだあります。
佐々木君が少しでも人間関係を円滑に行うにはどうすればよいのでしょうか。
佐々木君は自分が言葉の裏を理解できないことや,思ったことをそのまま口に出してしまうことを先にまわりの人に伝えてみるのはどうでしょうか。
これはかなり勇気のいることです。
仕事の面接でこの点を正直に話すと,かなりのマイナスポイントになります。
ですから,その分自分の長所もきっちりと示さなければなりません。
このように,自分の特徴を早めに伝えることで,
「なんでそんなことがわからないんだ!」
「なんでそんなこと言うんだ!」
ということから始まるトラブルを少しでも減らすことができるはずです。
いろいろな特徴をもった私たちがお互いを理解し認め合える社会を築いていければよいですね。