最近知人に子どもが生まれました。
大変喜ばしいことです。
出産にあたって一悶着あったとのことです。
病院から帝王切開を勧められたらしいのですが,奥さんがそれに断固拒否して言い争いになったらしいのです。
医者からは帝王切開をしない場合,母子になんらかの危険が生じるために勧められたとのことです。
友人(パパ)は危険を回避するために帝王切開での出産をするよう妻に説得しました。
しかし最後まで奥さんはそれを受け入れず自然分娩で出産したとのことです。
結果的には無事に元気な女の子が生まれることができました。(よかった!)
しかし,夫婦の間には多少の禍根を残したようです。
どうして奥さんは無理を押してでも自然分娩での出産を強く望んだのでしょうか。
理由は以下のようだということです。
2.帝王切開をすると二人目以降も帝王切開での出産を余儀なくされるため
うーん,自然分娩を信奉しているということは,裏を返せば帝王切開に悪いイメージを抱いているということです。
もちろん帝王切開をする必要がないならば,自然に分娩したいと思うのは当然なことでしょう。
しかし,私の知人の奥さんのように帝王切開に対して拒否感を持つ女性は一定数存在するようです。
どうして帝王切開を悪くとらえる人がいるのでしょうか?
赤ちゃんにとって最善な出産方法を選択しよう
帝王切開とは
まずは帝王切開についてよく知ってからその謎について考えたいと思います。
帝王切開,なんだか仰々しい呼び名がついています。
日本語の語源はドイツ語の「Kaiserschnitt:皇帝手術」に由来します。
ではそもそものドイツ語でのKaiserschnittの語源は?
調べてみましたが超複雑なので割愛します。興味のある方は調べてみてください。
帝王切開とは自然分娩が難しいと判断された場合に,手術によりおなかと子宮を切開して赤ちゃんを取り出す方法です。
帝王切開はどのような場合に行われるのか
帝王切開が適応される場合は以下の2パターンあります。
さまざまな事情から自然分娩での出産だと母子ともに危険が生じる場合
例)逆子,巨大児,前置胎盤,多胎妊娠,母が心臓に持病を抱えている場合など
出産時になんらかのトラブルが発生した場合に行います。
例)赤ちゃんの心拍が弱い,へその緒が絡まっている,赤ちゃんが降りてこない,子宮破裂,胎盤早期剥離(胎盤がはがれて赤ちゃんよりも先にでてきてしまうこと),分娩が長時間に及ぶ など
どちらにしろ母子の生命を守るために帝王切開を行う合理的な根拠がありますね。
帝王切開の歴史
帝王切開は500年位前からちらほらと行われたようです。
ただしその頃の帝王切開は死亡した胎児を取り出すためであったり,妊婦が亡くなった後に胎児を取り出したりするためであったりと,安全な出産とはかけ離れているものでした。
ちなみに日本では1852年に初めて帝王切開が行われたという記録が残っておりますが,やはり無事に出産したという例ではなく,子宮内で亡くなってしまった胎児を取り出したというものです。
西洋で帝王切開が行われだした19世紀前半には,妊婦の死亡率が75%だったという記録が残っています。助かる人の方が圧倒的に少なかったのですね。
20世紀に入り消毒法を用いた無菌手術が広まると,帝王切開における妊婦の死亡率は2~3%に激減しました。
現在の日本での帝王切開における死亡率は0.03%以下とさらに低くなっています。
現在の帝王切開の実施状況
日本の一般病院では現在約25%が帝王切開により出産を行っています。
ちなみに1990年では約11%でしたので,この頃に比べると倍増しています。
そして,現在でもその割合は増え続けています。
世界の国々の割合を平均すると日本と大差ないのですが,ブラジルは50%以上,韓国は40%以上,中国では約35%,アメリカは約33%とかなり高い割合の国も多く存在します。
なぜこのようにはっきりと割合が高い国があるの?
その理由はどうやら医学的な理由ではなく以下のようであると言われています。
・縁起のよい日に出産したいため
・病院がより収益を得られる帝王切開を妊婦に勧めるため
・自然分娩だと性器に傷がつく可能性があり,その後の性生活に影響がでるから
うーん,出産時の痛みについてはわからないでもないですが,その他の理由は信じがたい理由ばかりですね。
帝王切開による妊婦へのデメリット
出産時のトラブルから母子を救うために行われる帝王切開ですが,もちろんデメリットもあります。
必要な場合は帝王切開という方法を選択せざるを得ないのですが,きちんとデメリットも理解したうえで手術を受けることで術後の心構えができるはずです。
代表的なデメリットについて以下に紹介します。
②入院期間が自然分娩に比べ約4日伸びる。
③まだ切開部分が痛い状態で,赤ちゃんを抱っこしたりすることになる。
④退院後も手術後の痛みが残る。(痛みの強さや持続期間には個人差がある。)
⑤帝王切開をすると,次回生む場合も基本的には帝王切開となる。
*帝王切開後に自然分娩での出産を行うと,子宮が破裂するなどのトラブルが約1%の割合で発生してしまう。それを防ぐために,基本次回以降も帝王切開を行う。
⑥手術痕が残る。
なぜ自然分娩に強くこだわる人がいるのか
帝王切開に対する考え方や実施割合には国によって大きな違いがあることがわかりました。
また,帝王切開は簡単に行えるものではなくデメリットも多くあることがわかりました。
日本では帝王切開はそうしたデメリットも考慮しながらも,医師が母子の生命の保全に必要と判断して行われます。医師は事前に夫婦にデメリットも含めて帝王切開の必要性を説明するはずです。
それでも帝王切開に拒否感がある人は,どうやら「自然」という言葉に強いこだわりを持つ方が多いのではないでしょうか。
他の国々が自然分娩にそれほどこだわっている様子が見られないのを考えると,日本人の中にそうした「自然」にこだわりを持つ方が多いようです。
また,自然分娩でなかったり母乳の出が悪かったりすると何か女性として不完全であるように感じる人もいるようです。
そのため危険があろうがなんとか自然分娩での出産を行おうとする人がまれに出てきます。
とんでもない間違いです。
自然へのこだわり,女性としてのうんたらかんたらいうプライド・・正直どうでもいいです。
日本では帝王切開は医師が母子の生命の保全に必要と判断したから行われます。
出産では母子ともに無事であることが最大の課題です。
それに比べたら「自然」信奉や「女としての見栄」なんて毛ほどの価値もありません。
もし,その毛ほどの価値を生命よりも重んじるならば親になる資格はありません。
お腹の中の赤ちゃんは,もうすでに一人の人として立派に人権を有しています。
妙なこだわりで赤ちゃんを危険にさらすことは立派な虐待行為となります。
まとめ
人間は進化を遂げるうちに頭部の容量が劇的なスピードで大きくなってきました。
そのため出産時,頭部が子宮口から出てくるのが大変困難です。
頭部の容量の増加に対し,子宮口の大きさに関わる骨盤の大きさは対して変化がないようです。
このまま頭部の容量が増加していくと,人類は未来では帝王切開でないと出産できなくなるかもしれません。
現在は,もし帝王切開をしなければ子宮からでることが出来ずに死産に終わっていたケースでも,帝王切開を行うことにより無事に出産を行うことができます。
進化論で言えば自然な出産では淘汰されたはずの個体も,生き延びることになるので,頭部の大きさの進化に関して歯止めがかかることはありません。
帝王切開は母子の生命を守るのには必要な処置ですが,人類の未来を考えると課題を残すことになります。
とはいえ現状は母子の命を出産時のさまざまなトラブルから守っているのは間違いありません。
医療技術の進化とともに選択肢が増えたとしても,これからも我々は母子を守る最適な方法を選んでいくことには変わりありません。
参考文献
1)Pampers 妊娠期―出産―よくある質問:帝王切開
2)NICHIBAN 帝王切開とは
3)石原力「帝王切開の歴史 産婦人科の世界」1999
4)厚生労働省「平成29年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」