遺伝子改変技術 「クリスパーキャス9」がすごすぎる!

2012年,生物の遺伝子を簡単に書き換えることができる技術が生まれました。
クリスパー・キャス9という技術です。
なんだかクールな名前の技術ですね。

それまでにも遺伝子を書き換える方法はいくつかありました。
けれど,このクリスパー・キャス9,過去の技術とは比べ物にならないくらいすごいのです。

何がどんなにすごいのかを紹介します。

遺伝子書き換え技術「クリスパー・キャス9」とは

神の力

遺伝子とは

生物は小さな細胞が集まり1つの身体を作っています。
1つ1つの細胞の中には遺伝子が入っています。

「遺伝子って,よく聞くけど何だっけ?」

遺伝子は生物のありとあらゆる形を決めるための設計図です。

人間の遺伝子は現在のところ2万1306個と発表されています。

遺伝子が生物の特徴を決定する方法には以下のパターンがあります。

①ある特定の形や性質を生み出すのに,一つの遺伝子が原因となる場合。
②ある特定の形や性質を生み出すのに,複数の遺伝子が原因となる場合。

口ならAという遺伝子,鼻ならBという遺伝子をもとにできているというように,遺伝子と部品が1対1の関係だったら単純です。

しかし,ほとんどの形や性質は②のように複数の遺伝子が関係して生み出されています。

よって約2万種類ある遺伝子にごくわずかでも変化が生じると複数の部品が影響を受けます。
99・9%同じ遺伝子をもっていても,0.1%でも違いがあれば,見た目や性質が大きく異なる個体が誕生します。

自然の突然変異による遺伝子改変

まだまだ遺伝子という概念が生まれる数千年前から,人間は遺伝子を変化させ,新たな生物・植物を生み出そうとしてきました。
いわゆる品種改良です。
自然に起こる突然変異によって偶然現れた形質を人為的に交配させ,望んだ形質の品種を作るという作業です。

ちなみに突然変異とはどういうことでしょうか。

遺伝子は親から子に受け継がれていきますが,親と全く同じになるようには受け継がれません。
ほんのわずかですが,偶然により親の設計図の情報とは異なる情報が生じることがあります。
そして,間違いから生まれた変化も含めて受け継がれます。
この偶然の間違いから新しい遺伝子が誕生することを「突然変異」と呼びます。

自然の突然変異は発生頻度が低く,発現する変異も選べません。
そのためこの方法で品種改良しようとするとものすごく時間がかかりました。

X線を照射させて突然変異を誘発

現代に話を進めます。
1926年,生物にX線を当てると突然変異が起きやすくなることが発見されました。
これにより品種改良の技術が進歩しました。
しかし,まだまだ望み通りの変異を自由に起こすことはできません。

遺伝子配列を切断する酵素の発見

1968年,特定の遺伝子の配列する部分を切断する酵素が発見されました。

1973年,これらの酵素を用い遺伝子を組み換える技術が確立されました。

これらの技術によって,いらない遺伝子を切り取って無効化したり,切った部分に他の生物の遺伝子を組み込んだりして望んだ形質を生み出せるようになりました。
すばらしい進歩です。
自然による偶発的な突然変異を祈るのとは天と地ほどの差があります。

しかし,この技術にも問題点がありました。
特定の遺伝子配列を切断する酵素は,標的以外の遺伝子に標的と同じ遺伝子配列が存在すると一緒に切断してしまうのです。
そのため遺伝子を組み換える成功率は極めて低いものでした。
また,酵素の種類によって標的となる配列が決まっていたため,自由にねらった部分の切断をすることができません。
このように正確性や効率性に多くの問題点を抱えていたのです。

ねらった部分の遺伝子を切断する技術の確立

1996年,ねらった部分の遺伝子の配列を切断することができるようになりました。
さらなる大きな進歩です。(ZFNという技術)

2010年,ねらった部分の遺伝子の配列をさらに正確に切断し書き換えることができるようになりました。(TALENという技術)

このように遺伝子の配列を編集する技術を「ゲノム編集」といいます。
中二心がくすぐられるネーミングですね。
これら二つの進歩は大変大きなものでしたが,いかんせんZFNやTALENは実行するのに非常に手間と時間と費用がかかりました。
簡単に言うと,コスパが悪いのです。
そこで,もっと簡単に費用も手間もかからない技術の誕生が心待ちにされました。

神技「クリスパー・キャス9」の誕生!

2012年,いよいよ真打登場です。
クリスパー・キャス9という技術が誕生します。
この方法は非常に安価で簡単に短期間で実施することができました。

クリスパー・キャス9は,細菌・古細菌の獲得免疫システムをもとに生み出された技術です。

細菌・古細菌は自身の細胞に侵入したウイルスと戦います。
細菌が戦って生き延びた場合,倒したウイルスのDNAの断片を取り込んで保管します。
そして同じウイルスが再度侵入してきたら,保管していた情報をもとにすぐに相手を認識します。
認識した後は,ハサミ役である酵素でウイルスのDNAを切断・破壊します。
細菌がもつこの免疫システムを,人工的にゲノムを編集する道具として活用した技術がクリスパー・キャス9です。

この技術は確実に狙ったところの遺伝子を切断することができます。
しかもとても簡単に実行することができます。
専門家が「高校生でも自宅でこの技術を扱える」と評するほどでした。

クリスパー・キャス9という技術の誕生で生命の設計図を簡単に自由に書き換えることができるようにりました。

生命の設計図を自由に書き換えることができると以下のようなことが可能となります。
すでに実行していることもあります。

農業や漁業,畜産業への活用

・自然災害に強く,多くの実をつける野菜や果物を作り出す。
・病気になりにくく,少しのエサで,大きな体に成長する魚介類を作り出す。
・飼育しやすい性格で,肉付きがよく,短期間で育つ家畜を作り出す。

医療分野への活用

・筋ジストロフィー
・白血病
・冠動脈疾患
・鎌状赤血球貧血
上記のような根本的な治療法がなかった難治性の病気に対する治療
また,病原体に強い免疫細胞や,HIVウィルスに感染されない免疫細胞を作り身体に注入する治療も考えられる。

害虫の根絶

オスしか生まれなくなるように遺伝子を改変した蚊を放つ。
その蚊が交尾した結果生まれる個体は全てオスである。
次第にメスの蚊がいなくなり,最終的にその種類の蚊は絶滅する。

遺伝子を意図的にデザインした人を誕生させる

*デザイナーズベイビーと呼ばれている
・遺伝子が関係した病気を発症しない人間
・知能指数が非常に高い人間
・運動能力が極端に高い人間
・イケメン&美女

まとめ

遺伝子を改変した動物や植物を作り出すことは人類に多大な恩恵を与えてくれるでしょう。
しかし,同時に自然環境に対してはとりかえしのつかない悪影響を及ぼす可能性があります。
例えば,筋肉量の多い魚を作り出したら,その魚が他の種類の魚介類を食べつくしてしまうかもしれません。

医療分野では,遺伝子改変技術が新たな病気を生み出してしまう可能性もあります。

そもそもゲノム編集の技術を使用する際は,倫理的な問題が立ちはだかります。
自由に遺伝子改変を行えるならば,「優秀な人間のみが生きる価値を有する。」なんていうとんでもない優生理論を唱える人々が発生するかもしれません。

また,複雑な遺伝子の仕組みはまだまだ解明されていないことがたくさん残っています。
自由に遺伝子改変はできても,改変がどのような結果をもたらすのかはまだまだ不明な点が多々あります。
安易に改変すれば,予想もしない悪影響が生じるかもしれません。
たとえ遺伝子改変を受けて生まれた赤ちゃんは一見,異常がないように見えても,その赤ちゃんが生んだ子孫が生まれた際に異常が発現することがあるかもしれません。

クリスパー・キャス9を使いこなすには,技術的にも倫理的にもまだまだいくつもの壁が立ちはだかっています。

神の力を手にした人類。

自由に使い果たせるようになった先には一体どのような未来が待ち受けているのでしょうか。

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